okken.jp
Dec 3, 2017

具志堅の勧進帳

20171203s

読売新聞に掲載中の、元ボクシング世界チャンピオン・具志堅用高さんの半生をふりかえるインタビューが、大づめを迎えている。今でこそ天然ボケ感満載のタレント活動のさまが、お茶の間にほんわかと浸透しているけど、現役時代のあの切れ味抜群のファイトぶりは、忘れることができない。勝ち時、倒し時とみるや、容赦なく一気に攻め寄せていく鋭い、すきのない試合運び、、、氏の現役時代はぼくの小学校後半~中学にかけてのころだが、獲物を仕留めにかかる殺気だった雰囲気が、こども心にも、はっきり見てとれた。

タイトル奪取した試合からして、ほかの試合の中継で必ずといっていいほど見た、いわゆる「クリンチ」がほとんどなかった。寸暇も惜しむように徹底して打ちあっている、なんか妙に迫力のある強い人だなぁ、と思ってるうちに、鮮やかなダウンを立て続けに奪って、新チャンピオン誕生!の太書きの白い字幕が、中継画面に躍ったのだった。もっともこれは、挑戦者の果敢な攻撃を真っ向から受けてたったチャンピオンの、けれん味ない試合ぶりもあったればこその、快挙だったのだろう。

そのことへのリスペクトぶりも具志堅さんはさすがで、自分がタイトルを奪った前王者、ホァン・グスマン氏の名をとって、飼い犬のボクサー(笑)犬にグスマンと名付けたという。精悍な顔つきが似ている、がその理由とのことだが、大舞台でグローブを交わした者同士だけが知る、いわくいいがたい交誼、友情、親しみ、、、そういったものの漂い方も、この連載は、見事だった。ボクシングで自分の人生を作ってきた男の、偽りのない言葉。グスマン氏以外のたくさんの対戦相手にも、かたよりなくそれは、、、自分を倒して次の新たなチャンピオンになった相手にもそれは、注がれている。何十年ぶりに再会しても、互いをたたえあう気持ちには、微塵の色あせもないことが、連載を通じて本当によくわかって、それがたまらなくすがすがしかった。読んでいて、安宅の関の弁慶と富樫を、いつしか思い浮かべていた。