Aug 24, 2020
ルーベンスの見得
先日、ユーチューブの対談動画のゲストに、公認会計士・小説家の田中靖浩氏をお迎えした。最新刊「名画で学ぶ経済の世界史」(マガジンハウス)を取り上げながら、歌舞伎~美術~歴史や経済をさまざまに行き来するお話をご一緒した。
収録の前後には、2003年にベルギー、翌年にオランダを、それぞれ半月ほど一人旅したときの日記ノートを久しぶりに書棚から取り出し、見返した。
「フランダースの犬」のネロ少年が、パトラッシュと一緒にうっとりと見つめながら天に召されていった、アントワープの教会のルーベンスの大作の絵はがきも、ノートに貼ってある。
この絵の前でぼくは、キリストの亡骸を十字架からおろしている、屈強な男たちの身のこなしを、自分でも真似てみたのだった。からだのあちこちが、あまりの痛さに悲鳴をあげるような、力学的には不自然なポーズだ。真似てみてそれはわかった。
でもそれが、絵画としての力強さ、迫力には、プラスに作用しているわけだ。嘘からまことを出す。芸術の真髄だろう。これは歌舞伎の見得の、手足を極端に伸ばしたり広げたりする身体表現にも大いにあてはまる。異国の旅で再発見する自分の国の文化との接点や共通点。嬉しい出会いである。