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Apr 12, 2021

海老蔵の弁天小僧

名古屋・御園座の、市川海老蔵を中心とする歌舞伎公演の初日が開いた。さすが当代きっての人気役者、場内隅々まで華やかな空気が充ちわたる。女形の舞踊、初心者にも分かりやすく楽しい「弁天小僧」の二本立て、という演目選択も、コロナの今にはいい。理屈ぬきに爽快な気持ちにひたれる。

眼目の浜松屋の「しらざぁ言って聞かせやしょう」の名乗りあげ。「どこの馬の骨か、知るものか!」と店の者たちに罵られても、彼の弁天は、やたらに「キっ!」と反抗的なリアクションは見せずに、「そうか知らねぇか、じゃあいっちょう、名乗らせてもらいやすぜ」といった感じの、明るいおおらかなモードを保ったまま、おなじみの名ぜりふに入っていく。

あそこは、「キっ」とリアルに弁天がむきになりすぎると(最近の弁天は、こういう演じかたが圧倒的に多いのだが)、過剰に神妙な雰囲気が観客側に生まれてしまう。「浜の真砂と五右衛門が、、、」と、あっけらかんとぶちまけていく一部始終が、ともするととげとげしいアピールタイムになり、浜松屋のみんなも客席のみんなも、固唾を飲んで弁天の一言一句を「静聴」している、、、そんなケースが最近よくあるのだ。これだと、あんまり「乗れない」芝居になってしまう。

コロナの飛散防止のため、こういった名場面、名ぜりふに対して、いまは「待ってました!」「成田屋!」といった掛け声も禁じられている。高揚感という点では明らかにハンディを背負った歌舞伎なのだが、そんな中で、自身の圧倒的な人気のオーラを頼み種に、大楊さを保ったままあの場面を貫き、やんやの喝采を浴びた弁天小僧。團十郎襲名も先の見えぬ延期を余儀なくされ、さまざまな思いもあるかと察しますが、立派な舞台だと感じた次第です。

4月10日・初日観劇。