okken.jp
Aug 9, 2021

「仇ゆめ」のイレコ構造

8月の歌舞伎座に「仇ゆめ」という舞踊劇がかかっている。主人公は、美しい遊君に叶わぬ恋をした、一匹のタヌキだ。その遊君がひそかに思いを寄せている、舞いの師匠に化けて、親しく近づこうとするが、それは見破られて、、、という笑いあり涙ありの良作。
片思いを両思いにしたくて、その片思いの相手の片思いをちゃっかり利用する。つまり「片思いのイレコ構造」になっている、ということになる。

考えてみると、イレコ構造ということ自体が、なんだか、片思いっぽい。はこを一つ一つ、どんどん掴んでいっても、次第次第に小さくなっていき、結局中には何も入っていなくて、最後までハコのまんまで終わる。それはいわば、ゴールや目標相手にたどりつけないままの空しい追いかけっこだ。作者のなかにそういうコンセプトや裏テーマは、たぶん無かったと思いますが、ぼくがこの芝居を見るときに、いつも浮かべるイメージなのである。

タヌキ寝入りだの、タヌキおやじだの、ことばの用い方としては、あまりいい役目を与えてもらえない動物だが、一方で、信楽焼のタヌキや、童謡やおとぎ話では、愛くるしい姿もしばしば描かれる。どこか抜けてる、すっとぼけてる、憎めない可愛いさがあるタヌキ。「仇ゆめ」のタヌキも、まさにそんな役どころである。