イヤホンガイドとは
歌舞伎、文楽(人形浄るり)、お能など、古典芸能の公演にいくと、舞台を見ながら、要所要所で解説のコメントがイヤホンで聞ける、小型のラジオのような受信器をレンタルしていることが、よくあります。あれがイヤホンガイドです。近年ではおなじようなシステムが、美術館でも定着してきたようですね。使用料+保証金をまず支払い、帰るときに受信器を返却すると、保証金を受け取れる、という貸出しスタイルが、劇場ではよくとられています。
僕は1992年の3月に、まず、歌舞伎・文楽公演のイヤホンガイドの会社に、貸出しカウンターのアルバイト従業員として入社し、その後会社に希望を伝えて、テスト原稿を書いて、その内容を認めてもらえたのがきっかけで、ガイドの書き手&話し手をするようになりました。初ガイドが92年の12月でした。その後数年間は、ガイドとカウンター業務を並行してやりました。夏や秋には歌舞伎の大がかりな全国巡業があり、イヤホンガイドも帯同してサービスしますが、それにも、従業員としてついていきました。
ガイドのコメントは原則として事前に録音をし、それを毎日スタッフ(オペレーター、と僕らは呼んでいます)が、手元の台本と舞台とを見ながらボタンを押して、ガイドの音声を電波でとばして、お客さまの耳元にそれが聞こえる、という仕組みになっています。ですから巡業では、録音した自分のガイドを、自分でオペレートしてボタンを押し、お客さまに聞いていただくわけです。しかもそのお客さまは、開演までの入れ込み時間に、貸出しカウンターで「イヤホンいかがですかぁ」と呼び込みの売り子をして、借りてくださった方たちです。そして芝居が終われば、その方たちに、オペレートの部屋から駆け足でロビーのカウンターにもどって、保証金をお渡しして「ありがとうございました~!」とお見送りする。。。
これを、巡業で訪れた日本じゅうで、5年くらいやりました。僕のイヤホンガイドは、この積み重ねのなかで、スタイル、というか心意気を作りあげてきたものです。ガイドをつとめる演目の舞台はもとより、それが上演されている劇場の空気、雰囲気と、いかに一体になれるか、を毎回の信条にしています。
芝居の世界は、追い求めても追い求めも到達点のない、この上なく深いものです。いけどもいけども勉強不足、未熟ではありますが、だからこそ愛情もわく。その思いをあますことなく、言葉にのせて、心をこめて手がけております。劇場にお運びの折には、なにとぞご愛顧のほど、よろしくお願い申し上げます。