okken.jp
Dec 7, 2020

大事にする

引窓

実家の両親はありがたいことに二人そろって健在だが、さすがに年齢相応の身体の衰えは隠せなくなってきた。コロナ禍でたまの帰省にも気をつかいながら、じかに会う一回一回の機会の尊さを噛みしめている。

実子と継子の二人が、それぞれの立場から老母を優しく思いやる「引窓」というお芝居がある。実子は逃亡犯の相撲取り、継子はこの相撲取りをお縄にかけようと意気込む村代官、というまことに皮肉な巡り合わせのうちに物語が展開する。

「舞台にいる人たちみんなが、この年老いたお母さんのことを本当に大事にしている、大事に思っている、、、いや、人だけじゃなくて、行事とか自然とか建物とか、、、昔からずっとあるものを今のみんなで大事にしている、、そういう雰囲気が出せたら、この芝居はいいんじゃないか、成功といえるんじゃないか、と思います。芝居の難しい、細かい専門的な芸談とか技術論よりも、そういう雰囲気、大事に大事に、という気持ちが一番肝心なことだと思いますね」

この演目を屈指の当たり役にしてきた中村吉右衛門さんが、この演目を舞台にかけている月の楽屋で、噛みしめるように、ご自身にも語りかけるように、話してくださったのが、この言葉だ。1998年2月の名古屋でした。実家に1ヶ月くらい泊まりこんで、毎日のように通った公演だった。あの頃、その実家の父も母も、ぴんぴんしていた。歳月の流れには抗うことは出来ないんだなぁと痛感しながら、今から出来る自分なりの形で、「大事に」を、二人に対して示していこう。息子として。