Mar 28, 2017
稲越功一先生と、吉右衛門さん。
日曜日&月曜日、2日連続の国立劇場で、3月の歌舞伎を見納める。今日は三階までぎっしり満員だったので、四時間まるまる、立ち見。この硬質な内容の演目でここまで活気のある状況が、ちゃんと生まれていることが、ただもう嬉しい。気を張りつめてくたびれた立ち見ですが、でも、心地よい疲労です。
終演後、舞台上にて劇場からのご挨拶、吉右衛門さんから花束贈呈、吉右衛門さんの音頭で劇場50周年大千秋楽の手締め。お手を拝借、の一声も、かっきりと引き締まった播磨屋ならではの名口跡、ステキでした。吉右衛門襲名と国立劇場開場は、ちなみに、おなじ昭和41年のことなのです。
原宿経由で帰路。長年に渡って、吉右衛門さんの舞台を撮影し続けた、故稲越功一先生のオフィスが入っていた、駅前の古いけど小粋なアパートメントが、ついに解体される。二人っきりで夜更けまでこもって、写真集の作業に没頭したのが懐かしい。僕がいまかけているメガネは、先生からの形見分けです。
その人の思い出を誰かが大切にしているかぎり、その人は、まだ生き続けている。むしろ故人になられてからが、その人との本当の付き合いの始まりだ、とさえ、ぼくは思っている。今日、吉右衛門さんの芝居の帰りにここを通ったのも、まだ先生との巡り合わせや心の呼び合いが、続いているからだと信じています。