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Jan 18, 2021

歌舞伎の現場力

歌舞伎座で忠臣蔵の七段目・祇園一力茶屋の名場面を見る。コロナ対策で上演時間を短くし、舞台上に大ぜいの出演者が「密」になることを避けるため、主人公の大星由良之助が酔客を装って店のみんなと戯れる、芝居序盤の楽しいやりとりは、割愛されていた。

それもあってこの演目本来の上演時間よりは、かなりの短縮バージョンである。それでも、物語のエッセンスは損なわれることなく、いわばダイジェストとして、作品の妙味がちゃんと味わえる。

聞けば、少人数の座組みでの巡業公演など、むかしはむしろ、この短縮版のほうが、七段目の上演頻度としては高かったそうだ。その時その時の状況に応じて、伸縮自在なのが、歌舞伎の上演の仕方なのだ。

現場に合わせて如何ようにも対応する。お料理でいえば「おまかせ」「お好み」のフレキシブルさ柔軟さに、料理人の腕前とホスピタリティーとをにじませる、という感性・価値観。歌舞伎の底力は、そんなところにも、息づいている。